OBD2アダプターを使って車の故障診断コネクターからデータを取ることで、何が分かるのかを調べています。車の運転と燃費と言えば、「ゆっくり止まって、ゆっくり走りだす」のエコドライブ活動があるようですが、本当に効果があるか調べてみました。すると、思った以上にアクセルを踏む頻度と燃費には関係がありそうです。下の図は、横軸が走行距離当りのアクセル開度(多分、≒スロットル開度)の積算、つまりアクセルを踏んだり離したりが多いと大きくなる値をとり、縦軸を燃費としていますが、アクセル開度を良く踏むと燃費が悪くなり、あまり踏まない場合は燃費が良くなりそうだ、という風に読み取れます。以下、詳しく説明します。

スロットル操作の多さと燃費の関係

車両情報


調べたこと

 トヨタ ヴォクシー(ZRR70W、H.24年製)の燃費は一日の走行距離によって変わるでも書きましたが、トヨタ ヴォクシーの燃費は、一日の走行距離や、平均スピードによって変わることが分かったのですが、「ゆっくり止まって、ゆっくり走りだす」(エコドライブ活動)ってほんとに燃費良くなるのかなーと思い、時系列のデータも取ってあったので、調べることにしました。

計測方法

 OBD2アダプターを使って車の故障診断コネクターからデータを取ることが出来るスマホアプリで約2年間、1,642回分の走行延べ約18,532kmのデータを取りました。今回使ったデータは、走行中の約1秒ごとの時系列のスピード、燃料消費量、スロットル開度と、スピードから計算した走行距離、走行時間等で計算しています。

加減速の多さと燃費の関係

 時系列のスピードの情報から、まずは加速度を算出し、加減速の多い走行が燃費に悪いのか、調べてみます。時系列データの$i$番目の時点での加速度を$a_i$、スピードを$v_i$、時刻を$T_i$とすると、簡単に後方差分を取って以下のように計算します。

\begin{equation} a_i = \frac{v_i - v_{i-1}}{T_i  - T_{i-1}}  \end{equation}

例えばある走行データの一部を横軸に時間を、縦軸にスピードと加速度のグラフにすると図1のようになりました。
図1.スピードと加速度

また、加減速を少なく、スピードを上げていった例を探すと、図2のような例がありました。加速度は先ほどの例より小さめですが、どんどんスピードが上がっている様子が分かります。
図2.加減速少なく、スピードを上げた場合

 次に、加減速の多い少ないを何か表現したいのですが、単純に加速度の平均、みたいなことを考えると、加速度には正負あって、加速が大きい時でも後の減速が大きいと打ち消されてあまり加速の大きさが表現できません。そこで、加速度×時間で加速をしている時間が長かったら大きくなるような指標を考えてみます。が、加速度×時間の刻み($\Delta t = T_i  - T_{i-1}$)で積算してしまうと、速度(スピード)にしかならないので、それでは平均スピードでの比較と同じになってしまいます。では、加速度を2乗して平均化してみましょう。正負ある値のばらつき具合を考慮するには、絶対値を積算するより、2乗するのが統計学ではよくあるようなので、それに倣って計算してみます。

\[ 加減速の多さ = \sum_{i} \sqrt{(a_i \cdot \Delta t_i)^2}  \]

というような指標を考え、走行開始から終了まで積算し、さらに走行距離で割ってkm当たりの値を計算します。加減速が多いと大きくなり、滑らかに運転すると小さくなると思います。表にすると以下のようになりました。

表1.走行ごとの加減速の多さ

この表から、加減速の多さを横軸に、燃費を縦軸にして、グラフを書いてみました。ひとつの点が一回の走行になります。すると、思ったよりばらつきが少なく、加減速の大きい走行は燃費が悪く、なめらかに運転すると燃費がいいような、そんな相関ありそうな気がしてきました!

図3.加減速の多さと燃費

以前の記事で、燃費は平均スピードと関係がありそう、と書きましたが、その時よりも点の集まりが良く、相関関係が良さそうに見えますね。その時の平均スピードと燃費のグラフは下図のようでした。

図4.平均スピードと燃費

もっとも、スピードが出ているときにさらにそこから加速をするのは大変なので、ある程度、スピードと加速度には傾向があります。横軸に平均スピード、縦軸にここで考えた走行距離当たりの加減速の多さを縦軸に取ると、平均スピードが高い時にはそんなに加減速が多くない、と思われます。このグラフも、1回の走行ごとの平均値なので、1点が1回の走行です。

図5.平均スピードと加減速の多さ

アクセル操作の多さと燃費の関係

 加減速が多い、ということはアクセルペダルを大きく踏んだり離したり、ということかな、と想像できます。ということで、今度は、「アクセル開度」の値を見てみます。「アクセル開度」という名前のデータは残念ながら取れてなかったので、「Throttle position スロットル開度」を見ました。アクセルペダルを踏むと、エンジンのスロットルが開いて車が加速する、という風になっているはずですので、まあまあ、同じように動くのでは、と考えました。図1、図2の走行の時のデータに、スロットル開度のデータを並べてみると、下図のようになりました。

図6.スピード、加速度とスロットル開度

スピードが上がっていて、加速度が大きくなっているときにはスロットル開度も大きくなっていますね。では、図2のようにゆっくり加速していた時のスロットル開度はどうなっているでしょうか?

図7.ゆっくり加速した時のスロットル開度

走行開始後60秒~80秒のところはスロットル開度が大きいですが、あとはあまり変化がない様子です。なお、走行開始のスピードゼロで止まっているときもスロットル開度が20度前後の値になっていて、全体的にそこからゼロの方に動いていないので、止まっていてもスロットルが空いているのか、全体に下駄を履いたようなデータになっているようです。

 では、スロットル開度× $\Delta t $を積算し、走行ごとに積算値を走行距離で割って

\[ アクセル操作の多さ = \frac{\sum_{i} (スロットル開度_i*\Delta t_i)} { 走行距離 } \]

という指標を設定してみます。なお、スロットル開度には、マイナスの値がなさそうなので、2乗とかしないで普通に積算しました。この指標を横軸に、燃費を縦軸にグラフを書いてみると、下図のようになりました。予想通り、アクセル操作が少ないと燃費が良くなる傾向がありました。
図8.アクセル操作の多さと燃費

まとめ

 トヨタ ヴォクシー(ZRR70W、H.24年製)の約2年間、1,642回分の走行延べ約18,532kmのデータを基に加減速の多さ、アクセル操作の多さと燃費の関係を調査した結果、加減速が多いと燃費が悪い傾向があり、同様にアクセル開度を良く踏むと燃費が悪くなる傾向がありそう、ということが分かりました。